公演後、たくさん送っていただいたご感想文の中からお2人の方のレビューをご紹介させていただきます。

「アートの神の祝福あれ」
      (月刊パセオフラメンコ5月号/小倉泉弥)

ピアニスト深町純はステージにいたのだ。今日この日の演奏で目の前にいるアーティストたちは、瑞々しく華麗でインスピレーションに溢れていた。全体を包むようなオーラがあったように思う。暖かく穏やかで陽気だ。僕は深町純を知らない。自らの見識の無さにいつもうな垂れるわけだが、またしてもそれは露呈した。だがしかし、その存在はなんとなく感じた気がする。 情感に満ちた演奏を体感すると、やはり何とはなしに伝わるのだろう。

場内に流れるBGMをそのままに幕が開けるのは意表を突く趣向だった。 神々しく中央に立つAMI。彼女の踊りは澱むことの無い流水である。 意志がありながらも、意志が消えている。手の振り、体の捌きが美しいのは、もはや特筆すべきことではない。幻想を見ているくらいにつながっているようだった。 目の前で繰り広げられる踊りに、ずっと拍手しっ放しでいたかった。俯瞰する視点で眺めると、流水は起伏を持っているのがわかる。右にうねり、縦に盛り上がり錐もみしながら落下して、方や渦を巻きつつ音をたてつつ、それでもとめどなく流れて行く。直線的でもなく、しかし曲がる度に停滞することもない。にもかかわらず、水が岩に砕けて散るように、ハッキリと主張すべきときは主張する。「うわーっ」と、感嘆の声を挙げるしか他にない。なんだか、とても凄いものを観てしまった。

そして、音楽が面白い。フラメンコとジャズの出会いなんて浅い感じではない。現に新しい音楽、観たことの無いアートを作り上げている。このライヴに感激したのは、インスピレーションに彩られていたという理由だけでは無い。そこに至るまでにたくさん意見をぶつけ合って、でもきっと楽しみながら創り上げていったであろう音楽と踊りが、非常に創造的で次のステップへ力強く踏み込んでいるからである。このアーティストたちにしかできないものに仕上がっている。それが堪らなく楽しくて、嬉しい。

この混ざり具合、渾然一体となった感じはなんだろう。例えばもしコンパスを単にフラメンコに馴染みのない楽器で演奏しただけなら、きっと鼻白む印象になっていたと想像する。実際ドラムでソレアを叩いていたのだが、シンバルやタイコの歌い回しが優れていたために、浮足立つことなく、いやクリエイティブに成立したのがとても意外だった。方やサイケデリックに、時にプログレッシブロックのように、エレキギターやヴァイオリンが絶妙に絡み込んでいく。僕はもともとロックが好きだけど、フラメンコとは完全に別物として楽しんでいるため、混ざった音楽を平然と受け入れられるわけではない。しかしとても新鮮で、フラメンコの次なる在り方への模範解答にも見えた。これは観なければ本当に勿体無いと心から思う。とにかく知的であり、感覚的でもあり面白い。

アンコールが、また心に触れた。 深町の録音に合わせて堀越彰と渡辺剛が『誰も寝てはならぬ』を披露し、最後は全員でフラメンコ的な解釈も織り交ぜた『ボヘミアン・ラプソディ』を熱演。石塚の歌があり得ないくらい冴え渡り、 そこにいた全ての人の心に響き渡ったと信じて止まない。


「衝撃のコンサート」
      (Wonder Jazzland /浦山隆男)

昨年末からいろいろなことを見聞きして、改めて考え込んでしまった。一番驚いたのは、2010年も押しつまった12月29日に銀座博品館劇場で聴いて観た、「AMI triangulo & The WILL <狂詩曲> rhapsody」である。これはドラマーの堀越 彰が主宰する「The WILL」(ピアノ深町 純、ヴァイオリン渡辺 剛)に、フラメンコ・ダンサーのAMIのグループが加わった公演である。普通この手のジョイント公演と言うと、メインのグループの演奏の合間にゲストが演奏し、最後に一緒に演奏するという構成が多いのだが、これはまったく違う。その演奏はもちろん、構成・演出が、つまり全ステージそのものが一つの作品になっているのである。全演奏の約1時間半休憩なしで、曲目紹介などのMCも一切なし。一気に引き込まれ、あっという間に終わった。

ある意味フラメンコとジャズのフュージョンである。が、フュージョンというと8ビートのあれか、と思われそうだが、そんないわゆるフュージョンなどではない本当の意味でのクロスオーバー、フュージョンと言えよう。構成・演出(堀越 彰)も素晴らしかったが、その前に出演したミュージシャンのレベルが高かった。実は「The WILL」のメンバーのピアノの深町 純は公演直前(11月22日)に急逝され、この日は江草啓太が代わりを勤めていたが、彼も含め全員素晴らしい演奏であり、踊りだった。それにメンバー全員のこのステージ(音楽)を創る情熱を感じ、集中力と緊張感をひしひしと感じた。こんなコンサートは始めての体験だった。衝撃だった。クラリネットの鈴木直樹と一緒に聴きに行ったのだが、帰りはしばし無言。そして━「素晴らしかった!いろいろと考えさせられるね‥」我々も積極的にあれこれ挑戦しながら勉強しなくてはいけないね━という話に行き着いた。

ドラマーの堀越 彰には私は2005年の愛知万博でのコンサートに付き合っていただいて以来、大体の活動は知ってはいたがちゃんと演奏会を聴いたのは初めてである。この「The WILL」以外にも、2000年に自ら結成した「東方異聞 A Strange Story from The Far East」。さらに異色の民謡歌手の伊藤多喜雄グループのメンバーの一員であることなど、我々はジャズのドラマーとして参加していただいているが、実際の活動はさらに広く、奥深く計り知れない魅力がある。

私はいわゆるフュージョンとか、いわゆるアバンギャルドというのは好きではない。堀越 彰の世界はややもすると、その “いわゆる” で括られそうだが、そんな通り一遍なことではとやかく言えない何かがある。それにまだまだそっちまでは程遠い我々の、穏健保守派の琴線にまでも触れる面白さがある。その面白さが何であるか、俄然興味が湧いてきた。

最近、音楽の良し悪しが分からないと言うか、いいなと思えるような感覚がシャープに反応しなくなってきた。と思いつつ怠惰な気分を持て余していたところへの、今回のコンサートである。冷水を浴びせられたような感がある。自分の中の音楽に対する考え方などにどう結びつくかは分からないが、永年ただただ好きで好きで仕方がなかっただけの音楽について、何かを考えるきっかけになりそうだ。いやあ、音楽が、ジャズが好きで良かった!と改めて思わされ、さらに追い求め楽しんでみたいという意欲をかき立てさせられたコンサートだった。