OBSESSION10周年を迎える今年(2024年)は、僕にとって明らかに違う年になりました。まぁ、あえてそうしているところもありますが、とても真摯に、アニバーサリー公演に向かおうという気持ちでいます。まずは感謝の気持ちが大きいですね。スタート当初から、絶対10年は続けるという決意で僕は始めていますから、そのくらいユニットを続けることは難しいと、経験で知っていますからね。毎年たくさんの公演をさせてもらい、その何倍もリハーサルを行い、新曲の練習に追われる。その中で当然ディスカッションもするし、考えが食い違うこともあり、自分たちで制作もする。その積み上げの中での10年ですからね。本当にここまで来られたことに感謝します。
初めの一歩はとても勇気がいることだったと思います。少なくとも僕よりは。クラシックの本流で凄いキャリアを積んで来た訳で「え、ドラムと何やるの?」みたいな「何処の馬の骨ともわからない・・・」みたいなね。もー、本当に失礼な話しですよ。でも活動を始めてみると、そもそもチャレンジャーだったことが分かりました。基本的に何をするにも「挑む」という姿勢で一貫してるんですよね。
僕は早かったですよ。そもそも三舩さんが出演する「3人のピアニストが弾く」という企画のコンサートに、急遽、助っ人で参加したのが出会いですが、その後に三舩さんのリハーサルを訪ね、ラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲 第18変奏」をリクエストしたんです。
これを聴いて”一緒にやれるかも!!”と閃いたんです。早いでしょ。僕がやっていた「SOLO-ist」というパフォーマンスで、この曲を使いドラムソロをするという試みをしていましたからね。
「SOLO-ist」は2000年から始めたドラムを中心にしたパフォーマンスで、その中でバルトークの弦カルテットにドラムで加わったり、「春の祭典」のオーケストラ音源を切り刻んでドラムソロと繋げたり、ショパンやホルストや・・・、とクラシック音楽を使って実験的なことをしていました。
読めないスコアを何ヶ月もかけて読んだりしてました。そういう積み上げることは嫌いじゃなかったんですね。むしろこの苦労が楽しく、唯一無二になるための1歩、みたいな変な確信がありました。そして、これらのことがOBSESSION に繋がったのは明らか。「SOLO-ist」をやってなかったら OBSESSION は出来なかったと思います。
僕のドラマーとしてのキャリアはピアニストの山下洋輔さんのオーディションから始まったのですが、レギュラーメンバーとしてご一緒させていただいた10年間は無我夢中でした。毎年たくさんのコンサートをご一緒させていただいたんですが、その間にも、山下さんは「ラプソディ・イン・ブルー」をオーケストラと共演していました。
国内外を飛び回っていらっしゃる時で、ニューヨークトリオや和太鼓の林英哲さんとの共演、カーネギーホールで行われたヴァーブレコードの記念コンサートでソロを弾くからと夢中に練習する姿も見ていて、まるで自分のことのようにドキドキしたのを覚えています。OBSESSIONで「ラプソディ・イン・ブルー」を演奏するようになって、山下版「ラプソディ・イン・ブルー」がいかにユニークかを改めて感じました。ジャズという切り口を最大限に活かし、あんな自由で独自の解釈を指揮者やオーケストラにぶつける、それも固くならずに軽快に遊ぶように。どんな精神状態なんだろう、と想像したりしました。
また、林英哲さんのベルリンフィルとの共演や「モノプリズム」も刺激を受けました。もー、命を懸けてチャレンジしている姿に震えました。山下さんのグループと林英哲さんのグループで一緒に行った南米ツアーにも参加しました。楽屋で出番を待っていると、英哲さんのステージに度肝を抜かれたリオ・デ・ジャネイロの聴衆が、割れるような歓声を上げている。このお二人の壮大なチャレンジを目の当たりにし、世界に向けて、僕も”音楽の冒険”をしたい、やらなきゃ ! と思いました。
OBSESSIONも確かに大きなチャレンジです。誰かに望まれてやっているわけではなく、ドラムがクラシック音楽の中で生きていて、なくなてはならないものであることを証明するチャレンジですからね。今は淡々と、そのための義務を果たすという感じです。そして今も尚、僕の背中を押してくれているのは、山下さんと英哲さんです。
OBSESSIONの初海外公演となったのは2018年のモーションブルー・ジャカルタでした。
その年、もう一度今度は日本とインドネシアの国交50周年を記念したイベントに、スキマスイッチ、キロロ、AKB48とそのジャカルタ版 JKT48と共に参加しました。とても光栄で楽しみな海外フェスへの参加で盛り上がりました ! まー、頭の片隅には、いくつかの不安材料は解決されぬままでしたが・・・。まずはグランドピアノがちゃんと届くか!? 届かなかったらドラムソロ??? 本当にありえない話しじゃない、って感じで、とても心配でした。ちなみにグランドピアノを使うのはOBSESSIONだけです。会場に着いたら置いてあってホッとしました。リハーサルもなく、サウンドチェックも本番の直前の5分くらい、ピアノとドラムは巨大な野外ステージの端と端、OBSESSION史上最も離れて演奏したのがこの日でした。モニターからは爆音でピアノが返っている。ドラムセットは3セットあるものから「これを使え」と言われて見たらボロボロのセット! バスドラムのヘッドなんか破れかけててハラハラしました。まーそんな経験を出来たのも、今となれば楽しい思い出です。
それと、やっぱり初めての演奏ですね。レパートリーはまだ3曲しかなく、OBSESSIONという名前もない時に、都内でも行われたワイン会に参加しました。不安もいっぱいの中、リハーサルで1曲終わるごとにピアノ調律師の磯村さんが「凄い!」とか「素晴らしい!」とか「なんでこんなに合うの?」とか合いの手のように言っていただきました。本番も著名人の多い客席から同じような反応で、「え、そんなに良い? 良いかも!? 良いんだ!!」みたいになって、本当にあの1日がなかったらOBSESSIONは始まってなかったかも知れません。あの場にいらした皆様に「おかげさまで10年続きましたー」と報告したい気持ちです。演奏した3曲は以下です。
1 主よ人の望みの喜びよ (Bach)
2 天使のミロンガ~天使の死 (Astor Piazzolla)
3 パガニーニの主題による狂詩曲 第17~18変奏 (Rachmaninov)
OBSESSIONの活動を初めて、クラシックの作曲家の凄さを知りました。ジャズはどちらかと言えば演奏家のための音楽ですよね。演奏家の創造力、アドリブ力や技術が問われる音楽。クラシックも演奏家はとてつもなく厳しい研鑽を積んで、演奏力を身につけなければならないのですが、その演奏家が作曲家の残した譜面や文献の中から何を表現しようとしたのか想像し、決断し、表現する。もはや確かめようのない作曲家の意志を、自らの演奏で表現する。考えれば恐ろしい世界です。これはもう伝道師ですよね。この”作曲家と対峙する”ということを、OBSESSIONの活動で、初めてしたような気がします。 三舩さんが言うことは三舩さんの解釈と考えると、自分の解釈を見付けなきゃならない、ということですよね。そうなると、これまで残っている音源をたくさん聴き、譜面を読み直して、となる訳です。もう旅です。作曲家とのふたり旅。嫌ですねー、ムソルグスキーとのふたり旅、アル中ですからね。でもそんな感じです。
常に新しい曲に取り組みたいと思っています。ただ、やってみたら上手くいかず、散々リハーサルしたのに結局発表しないまま、という曲もあります。最初にアルバムを作った時のように ”これぞOBSESSION“ という曲を、10周年公演でやりたいという話はいつもしていました。「展覧会の絵」は以前から少しずつ練習していて、部分的に発表もしていました。フルで演奏すれば40分近い組曲ですから、これまで何度も演奏している三舩さんとは違い、僕にとっては高いハ
ードルです。
美術館の回廊を歩くプロムナードに導かれながら、一つ一つの絵の物語の中に没入して行く流れは、とてもドラマチックです。11曲に描かれた情景やキャラクターやその質感に、いかにドラムをフィットさせるか、あるいは新たな何かを加えることが出来るか、そんな答えのないトライをしています。自分の感性を信じつつ、ある時は疑いつつ。やればやるほどハードルは上がりますが、これぞOBSESSIONの10周年に相応しい曲、と今は疑いなく思っています。
ドラムの可能性をいつも考えます。リズム楽器として、打楽器としてはもちろんですが、メロディックに叩くことも出来ればノイジーに表現することも出来る。シンバルを使って風を吹かせたり、ゴングで不安や絶望を感じさせたり。チューニングや叩き方で変化する倍音がピアノの倍音と重なり、聴いたことがない新たな響きを生み出すことがありま
す。素晴らしい響きの東京文化会館小ホールですから、微細なタッチの音も聴こえるはず。是非、チェックにいらしてください。
この10年、様々な場所で演奏をさせていただきました。とても好きになって何度も通ったところもあります。そこには 必ず会いたい人、聴かせたい人がいたんです。新しい曲が出来れば、また聴かせに行きたいと思う、それがあってこそ の10年間。これからもそれが続けば良いなと思います。そのためには良い曲を探し、練習し、OBSESSIONのアンサン ブルに仕上げる。これまでして来た、当たり前のことをするだけかなと思います。
24歳の時に山下洋輔さんに出会い10年間レギュラーユニットに参加させていただきました。その後、深町 純さんと出会い亡くなるまでの10年間を「The WILL」や「SOLO-ist」や、その他様々な場面でご一緒しました。そしてその後に出会った三舩さんと10年。素晴らしいピアニストが現れ、育ててくれ、ピアノの音が僕の血肉になっているような気がします。9月16日東京文化会館「OBSESSION 10th Anniversary」は僕にとって、久しぶりに大きなチャレンジです。心を整えて、その日を迎えたいと思います。
日時:2024年9月16日(月・祝) 開場13:30 / 開演14:00
場所:東京都文化会館小ホール(東京都台東区上野公園5-45)
公演ページ https://www.t-bunka.jp/stage/22197/
料金:大人 6,000円 学生 3,000円 全席自由
チケット受付
・東京文化会館チケットサービス
03-5685-0650 (10:00~18:00) https://t-bunka.jp/tickets/
・チケットぴあ
・イープラス
・未来音楽企画メール受付 ticket@mirai-music.com
お問合せ
未来音楽企画 03-5843-8270 info@mirai-music.com