堀越彰 オフィシャルサイト

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9月に入って日に日に涼しく、なりませんがいかがお過ごしですか ? "今年の夏はニューヨーク" と早々と決めた旅でしたが、時間が経つにつれ少しずつ目的も変わり僕にとってはとても重要な夏のイベントになりました。

就航したてのアメリカンエアライン、羽田からの直行便で8月7日朝6時30分、ニューヨーク、ジョン F ケネディ空港に降りました。6時半に着くってことは羽田を発ったのも6時半で映画3本観てほとんど寝てないですから、体はグッタリ。でもスケジュール一杯の1週間の旅ですから頭だけはギンギンです。昨年6月以来のニューヨーク、通算で5回目ですが、何度来ても始めて来たときに感じた怖さと面白さを思い出します。とてつもない緊張感と興奮で地下鉄に乗り、街を歩き、ライブハウスに飛び込んだ記憶が蘇ります。

そもそも今回の旅は、アジアン・カルチュラル・カウンシル(ACC)の奨学金制度で半年間ニューヨーク滞在をする尺八奏者 小濱明人くんが2月のライブのときに「遊びに来てくださいよー」なんて言うもんだからスッカリその気になって「行く、行く行く」と決めてしまいました。だから責任を取って小濱くんが暮らすアパートに1週間お世話になることにしました。ロウワーマンハッタンのジョンストリート沿いにあるアパートの20階、部屋はテラス付きの広い1ルームで実に快適でした。

もちろん遊びに行くだけではもったいのがニューヨーク。昨年6月に藤井郷子 mado で始めてニューヨークでジャズフェスに参加して以来、2度目のニューヨークライブを実現すべく、ライブハウスに出演依頼をし共演者探しをしました。と言っても、全て小濱くんが動いてくれて素晴らしくパーフェクトな準備をしてくれました。いろいろ苦労もあったようですが、その話しはまたの機会にするとして、僕は5日前にニューヨーク入りして本番をやるだけ。言い出しっぺとしてはなんとも申し訳ないのですが「それは演奏でお返ししよう」ナーンて調子いいこと考えながらリハーサルに向かったわけです。

本番前日3時間のリハーサルはゲストの ジョーハリスン(Guitar)さんとまさに音で自己紹介、って感じで僕たちのオリジナル曲を次々に練習しましたが、僕たちの目指した音が、 新たな解釈とともに産み出されて行き「みんなにこの瞬間を観せたい」と思うほど素敵な時間となりました。そして8月11日の本番はマンハッタンの中心地、ミッドタウン52nd Street 沿い にあるジャズクラブ " Somethin' Jazz Club " 。白壁のモダンな内装のそのクラブで僕たちのプロジェクト「LOTUS POSITION」は新たに出発するわけです。

子供の頃に兄の影響で音楽を聴くようになり、中学1年生で始めてスティックを手にして以来、ずっと憧れの場所だったニューヨーク。現実は写真や映像で観る美しく素敵な場所 などではない、臭くてうるさくて汚いこの街。それでもこの街のけた違いのエネルギーに魅了され世界中から集まるパフォーマー達。その中の小さな1つではありますが、僕たちが考えた 僕たちの音をこの街に響かす機会を得たことに、感慨深い想いが募ります。あとは「ただまっすぐに自分の音を出すだけ」そんな気持ちで演奏を始めました。

ここからは僕が語るより、届いたレビューをお読みください。偶然この時期にニューヨーク滞在をしていた京都RAGのプロデューサー河上ひかるさんのレビューを掲載させていただきます。

えっ? もちろん観光もしましたよ。アメリカ自然史博物館、MOMA、エンパイヤーステイトビルディングに対岸から観た自由の女神。タイムズスクエアで記念撮影のあとブロウドウェイでスパイダーマン、シルク・ド・ソレイユ、ヤンキースタジアムには珍しいレアルマドリッド vs ACミランの試合、巨大なチーズケーキとハンバーガー、港でティボーンステーキ、ハーレムのソウルフード、ブルックリンの友達の家でセッション大会、9.11の跡地と新しいツインタワー、ウォール街、ハーレム教会のゴスペル、セントラルパークのパーカッションサークル参加、ヴィレッジのライブハウスにドラムデュオを聴きに行く・・・・。そんな楽しい1週間でした。

オーディエンスレビュー

LOTUS POSITION LIVE IN New York

小濱明人 Akihito Obama (尺八) × 堀越 彰 Akira Horikoshi (Drums & Per)
GUEST : Joel Harrison (Guitar) Emme (Vocal)

Aug. 11, 2012

(株)ラグインターナショナルミュージック 河上ひかる 

真夏の土曜日の夕暮れ時、タクシーがなかなか捕まらない。そびえ立つ無数の高層ビルの間を縫うようにイエローキャブが走る。開演時間の5時をちょっと過ぎてようやく、京都風の言い方をすると52丁目3番街東入ルにある “SOMETHIN’ Jazz Club“ のビルの前にたどり着く。

私は、京都で LiveSpot RAG、スタジオラグ、RAGMANIAレーベルなどを経営する会社を夫とやっていて、今、娘と夏休み旅行でN.Y. に来ている。今日は23年来の仲間であるドラマー 堀越 彰が、尺八奏者とやっているユニットでライブをすると聞いて、そのN.Y.公演を目撃するために来た。

私は二十数年にわたりライブシーンに携わって来て、世界的に活躍するジャズミュージシャン達が必ず一時期 母国の音楽を振り返るのを見て来た。それで以前から「日本人DNAが突き動かすものの表現と、そこからの創作的な挑戦」に関心を持って来た。私自身、日舞の師匠のマネージャーとして、バークリー音楽大学でジャズトリオと日舞のコラボレーション公演をやって来た経験もある。娘はこの夏、日舞の名取になった。そんな中で、同世代の同志とも言える堀越たちの挑戦はとても興味があった。

今日のラインナップには “LOTUS POSITION” とある。アジアを連想させる響き。続いてAkihito Obama と Akira Horikoshi の2人の名前。その上に SOLD OUT の文字。そこへ戸惑った様子の日本のご婦人が声を掛けて来た。 「あの、今からここに行かれるのですか?もう入れませんかね?・・・」 不安そうな女性に「とにかく行ってみましょう。」とエレベーターに乗る。

白い壁の清潔な印象の店内は人で溢れていた。日本人を含むアジア系が目立つが、白人も多い。あらゆる人種が集まるN.Y.ならではの光景だ。最近、禅思想や武士道、ヨガなどにブームの域を超えて興味を持つ人がたくさんいると聞いていたが、なるほどそれを目の当たりにしたような客層だ。静かに公演の始まりを待っている。そんな中、イカツイ風体の日本人オーナーが恐ろしい顔つきで自らドリンクオーダーに立ち回っている。お店にとっても予想外の満席のようで、スタッフが足りていなかったと後で聞く。我が Live Spot RAG でもたまに起こる、不意打ち開演前修羅場状態だった。

この時期、観光客で溢れるN.Y.は、街中がイベントで一杯になる。それもハイレベルなものばかり。そんな中で、SOLD OUTとはすごい!立ち見するしかないようだ。昨夜の時点ではだれも予想していなかった喜ばしい状況。結局15分押しで開演した。

小濱明人は現在、アジアン・カルチュラル・カウンシル(ACC)による奨学金プログラムで今年3月からこちらに滞在をしている尺八奏者。間もなく6ヶ月のN.Y. 滞在を終える小濱が、その集大成として、古典ではなく創作音楽で挑む今回のライブ。日本から駆けつけた堀越 彰にとっても、十数年前から創り続けて来た日本の古典音楽とジャズで培った即興音楽の融合をついにこの街で響かすことになる。堀越の海外公演数は25カ国54カ所、小濱は28カ国40カ所と共に経験豊富だが、“LOTUS POSITION” としては初の海外公演。緊張感が漂う。

まずはこの2人のデュオでステージが始まった。

1『風神』

堀越 彰の曲。N.Y.のビルの一角に、尺八の風が吹く。木々が揺らめき、竹林がざわめく。日本人なら誰もが思い浮かべることの出来る " 和 " 。心地よく揺らぐ音がとても細かい分子となって身体の奥深くまで染み渡ってゆく。硬質な石の街でそれはとても特別な出来事のように感じられる。果たしてニューヨーカーは何をイメージするのだろう。


2『Don Tappo』

歌舞伎の立ち会いのシーンに流れる古典曲。
山下洋輔ニュートリオでプロデビューしたジャズドラマー・堀越のドラムが、このユニットでは変幻自在に和へと転じる。太鼓、大鼓、小鼓、鉦、銅鑼・・・。いわゆるドラムセットの西洋音楽の中での役割から解放され、時に尺八に寄り添い、時に様々な色彩を放ち自由な空間を作る。堀越は日本人ドラマーの中でも、そんなことが出来る希有な存在だと言える。父が日本舞踊家という彼は日本の伝統音楽を敬愛している。それ故、和楽器奏者たちからの信頼も厚く「東方異聞」という和楽器奏者と組んだユニットのCDも彼名義で作っている。薩摩琵琶、尺八、笛、能管が、キーボード、ベース、ドラムとともに、想像力をかき立てる独自の音楽を作っていて、小濱もメンバーの一人だ。遠くイタリアからも素晴らしいレビューが届いている。
http://www1.ttcn.ne.jp/play-ground/official/special/special/ti_sp03.htm


3『奄美の子守唄』

小濱明人の曲。
ここから今回のゲストギタリストのジョー・ハリソンが加わり、3人になった。モダンな響きが空間を包み、優しく流れてゆくリズムと牧歌的なメロディーが絡んで行く。
ジョー・ハリソンは、とてもスピリチュアルな音で “LOTUS POSITION“ の世界観を広げるのに貢献している。メンバーが揃って合わせたのは昨日の3時間だけだそうだ。彼は日本に行ったこともなければ、日本の音楽も知らない。ただ、自宅のキッチンにはおじいさんが買ったHIROSHIGE (歌川広重) の版画が今でも飾られているそうだ。
「音楽家とは不思議なもの。お互いのバックボーンや趣味などを知る前に音を創りステージに上がる。言語コミュニケーションを超えて、まさに音で会話をし互いを知って行く。でもそれが出来るのは良いミュージシャンの証。」堀越が後日、そう語った。小濱はいい共演者を選んだ。


4『おんなぬこ』

小濱明人の曲。
どこか懐かしさを感じる曲だ。夕暮れ、神社、田舎、小さな靴音も子供の遊ぶ声も浮かんでくる。スライドギターが遠い記憶の旅へと誘い、鈴の響きがフラッシュバックさせる。尺八は語り部のように静かに歌を歌う。今、ここがニューヨークであることなど忘れてしまう。
尺八はズルい楽器だ。あの音には人の心を鷲掴みする魅力がある。でもそればかりでは長続きはしない。魅力的であると同時にモノトーンであるのも、また尺八の特徴だ。聴いている方も次第にその響きに慣れてくる。小濱の力量が試されるのはここからだ。


5『MORIE』

小濱明人の曲。
フリーミュージックといえばいいのだろうか。終始リズムをアウトし、無調の響きによるアプローチが続く。いよいよ " 和 " のテイストを残しつつも、小濱の幅広い音楽性が見え始めた。堀越にとっても、フリーは十八番。デビューしたての頃から山下洋輔(Piano)に随分鍛えられてきた。彼の大きなフォームから繰り出される繊細にしてダイナミックな音は、海老沢一博、村上ポンタ秀一 両師匠から継承されたものだと私は常々思っている。とにかく彼のドラミングは美しい。それ自体がパフォーマンスと思える、孔雀(クジャク)のような美しさだ。


休憩を挟んで、歌のゲストEmme が登場。


1『月つき』

ネイティブ・アメリカンのナヴァホ族に伝わる曲、詞は松本MOCO。
ただ一人、Emmeが歌い始める。日本のわらべ歌のように聴こえる。「今はまだ会えぬ 君を想う」という内容の愛のうた。やがて尺八が絡み、デュオになる。


2『おやすみ~Yo Ke Omo Mi~』

ナイジェリアの子守唄、詞は松本MOCO。
ギターの美しい響きと小さなベルに導かれ、 Emme が表情豊かに歌う。優しい声だ。時折聴こえる歌い回しが独特で北欧かアイルランドの民謡に聴こえなくもない。ギターと尺八の心地よいリズムに揺られながら 眠りを誘われる子守唄だ。「里山の家の縁側でお昼寝している気持ちになったわ。」会話が客席から聴こえてきた。


3『風音』

Emmeの曲、詞はChang Jung。
つかずはなれず、行きつ過ぎる声と尺八にドラムが絡み合い、"ひゅるるる" と風が舞うが如く、音の渦がうまれてゆく。ポップスのコーラスの仕事を長年やってきた Emme もまた、幼少より日舞をたしなみ、長唄も習っている、和洋どちらもいけるひと。息の使い方が丁寧で独特のコブシがある。安らぎに満ちた歌に尺八が良くあっている。


4『晩秋神楽』

堀越 彰の曲。
尺八が唸り出した。お能で言う序破急の「急」が始まった。 堀越の書く旋律は哀愁を帯びて美しい。ふと晩秋の田園風景がよみがえり、しっとりとした気持ちになる。首を振り、情感を込めて歌い上げる小濱。彼は大学時代、軽音楽部でギターも弾いていたらしい。やはりライブのテンションを心得ていた!どんどん熱くなる。その豊かな表現力と計り知れない演奏力を駆使して、尺八の魅力を最大限に引き出していく。


5『夢幻狂詩曲』

堀越 彰の曲。
ドラムが速いリズムを刻み、尺八も激しく応える。ギターは即興的でスリリングに展開する。面白い。たぶん尺八であれだけの音を出し続けるのは相当の肺活量で、立ちくらみするのではないかと心配になるが、その必死さこそがリスナーの体温を上げる。渾身の力で吹くからこそ、つたわるものがある。ドラムもギターもだれも脇には廻らない、一緒に突っ走ってゴールとなった。


拍手喝采。なかなか鳴り止まない。やったぜ!日本男児!! オリンピックでもここのところ女性の頑張りばかりが目立つ中、久しぶりに痛快の気分になった。彼らの音楽は N.Y.でしかと受け止められた! 公演時間目一杯でアンコールには応えられなかったが、とてもよい後味だった。隣になったひとに話しかけたら、偶然 日本領事館の文化担当の方だった。

「今日のお客さんはどんな方々なのでしょう?」と尋ねたら、「お見かけしたことのある方では、コロンビア大学の日本古典に精通した教授、こちらの雅楽や邦楽のグル-プ、在住の日本人の方々などがいらっしゃっていますね。」とのことだった。

京都に住んでいてよく感じることだが、日本文化に興味を持つ外国人は日本人より日本人らしい。この日のお客さんたちもまさにそんな印象だった。上辺の盛り上がりではなく、深く楽しんで、その余韻を持ち帰ってもらえたように感じた。

"LOTUS POSITION" は自分たちのアイデンティティをここN.Y. で、はっきりと打ち出すことに成功した。そして異文化のミュージシャンを迎え入れ、日本のDNAの音楽を創造的に進化させていける可能性も見せてくれた。世界に目を向けて活躍する彼らのこと、きっとこれからいろんな国のアーティストたちと出会い、もっともっと磨かれてゆくのだろう。

ライブの手応えを確かに感じつつ、N.Y. の夜の街を歩く彼らを見て頼もしく思えた。日本にいると自覚することがない「日本人としての誇り」。 彼らのこの先の音を追って行きたい。