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なぜ僕がこんなに日本の文化にこだわるのか、これは自分にも謎です。
ただ、今まで共演し僕が影響を受けてきた日本人アーティストから「日本人としての美意識」を強く感じることがありました。

では「日本人としての美意識」とは何か。
僕の言葉で言いかえれば、それは何々風ではない「個人的美意識」。

僕が魅了されるアーティストの極めて個人的な表現の中に、逃れようのない日本的なものを感じてしまうのです。
当然ですよね、日本人ですから。
でもそれを感じさせてくれるアーティストは限りなく少ないと思っています。


2000年、「東方異聞」を始めようと思った理由は "日本の伝統楽器を現代に鳴らしてみたい" という僕の興味でした。
誰かに聞かせたいというよりも、僕が聞いてみたい、僕が体感したい。琵琶のあの響きや能楽のあの間は何なんだという興味があったんです。やけに心地いいとか、何かわかるとか。


僕の演奏に日本的なものを感じると言われることがよくあります。でも今まで一度だって自分のプレイを「日本的に」と望んだことはありません。好き嫌いではなく、教えられたわけでもないのにそうなってしまうことって誰にでもありますよね。持って生まれたとしか思えないもの。僕はあらゆるものの影響から、そんな内在する自分自身を探り当てたいと思っています。

自分が何者なのかを知りたい。「東方異聞」は僕の興味です。

日本の音楽の中で僕がどう振る舞えるかというのが最大のテーマです。


畳に暮らせば日本人か、和服をまとえば日本人か、武道を志せば日本人か・・・。
もしそうだというのなら今の日本に日本人でいることは難しいでしょう。
和楽器を奏でれば日本的か・・・、もちろんこれにもNOと言わざるを得ない。
しかしそうであればこそ、和楽器と向かい合いたいと思っています。

形だけではない、本当の意味で「日本的美意識」を表現できる和楽器奏者が
「東方異聞」にはいます。

 薩摩琵琶の 首藤久美子
 笛・尺八・能管の 竹井誠
 尺八の 小濱明人
 ベーシストでありながらそれを持つ 吉野弘志
 きょうまで幾度となくこの件について語り合ったピアニストの深町純

 そして願わくば、僕もそうありたいと思っています。

 


今年を振り返るにはまだ少し早い気もしますが、僕にとって2006年は大きな収穫の年となりました。

6月の「SOLO-ist」公演とそのDVD制作( 現在進行中 )。「The WILL」のCDリリース。そして、待ちに待った「東方異聞」のCDリリース。

ここ6年間に僕がつくり続けたものを、この歳にこそ持てるエネルギーとスキルで一気に作品にする、そんな思いを持ち続けた1年でした。


2000年に薩摩琵琶の首藤久美子、笛・尺八・能管の竹井誠とともに始めた「東方異聞」は、その後ベースの吉野弘志、尺八の明人を加えた5人編成となり、更にピアノの山下洋輔、バイオリンの金子飛鳥、民謡歌手の伊藤多喜雄、ピアノ&キーボードの深町純、舞踊家の春日野優らのゲストを招き、未だかつてない日本発のワールドミュージックを目指し、今日を迎えました。

結成時に掲げた「それぞれのプレーヤーがみずからのルーツと向き合い各楽器の限界を越える」というコンセプトは現在も生き続けています。

10月25日に発売になりましたアルバム "A Strange Story from the Far East" は、そんな「東方異聞」の魅力を50分に凝縮した内容になっています。

そのアルバムの発売を記念し、今年最後の僕の主宰するパフォーマンスを渋谷のモダンなライブハウスで行います。

ご来場を心よりお待ちしております。  堀越 彰




AKIRA HORIKOSHI 東方異聞
「A Strange Story from The Far East」

    ~ いにしえに眠る 雅の魂よ 今よみがえれ ~

<Member>
  Dr/Per 堀越 彰
  薩摩琵琶/歌語り 首藤久美子
  笛/尺八/能管 竹井 誠
  尺八 小濱明人
  Bass 吉野弘志
<Guest>
  Key 深町 純
  歌 ERiCO


AKIRA HORIKOSHI 東方異聞
「A Strange Story from the Far East」
      アルバム発売記念ライブ

2006年11月14日(火)
 18:00 Open 19:30 Start
 JZ Brat
 (渋谷セルリアンタワー東急ホテル2F)
 Music Charge \4200 + オーダー
http://www.jzbrat.com/
03-5728-0168 (チケット取扱)  


1 風神 (曲 堀越 彰) 4:01
  Dr/Per 堀越 彰 尺八 竹井 誠 尺八 小濱明人

同じメロディを吹いてもプレイヤーの息使いで微妙にずれる尺八のメロディ、そこが好きなんです。


2 響宴の舞 (曲 堀越 彰) 4:03
  Dr/Per 堀越 彰 薩摩琵琶 首藤久美子 笛 竹井 誠 尺八 小濱明人
  Bass 吉野弘志 Key 深町 純

2003年、ピアノの山下洋輔氏をゲストに迎えた時に書いた曲。ライブの1カ月前、右手人差し指切断寸前の怪我をし、その中で不安と闘いながら左手で鍵盤を叩いてつくった思い出があります。


3 哀歌 elegy (曲 首藤久美子) 4:13
  Dr/Per 堀越 彰 薩摩琵琶 首藤久美子
  Bass 吉野弘志 Key 深町 純

首藤久美子作曲。さすがに薩摩琵琶の特徴がよく出ている曲ですね。ベースソロの後、テーマに戻るまでの数拍の静寂に哀愁を込めてみました。


4 さくらさく (曲 堀越 彰 詞 ERiCO 編曲 菅谷昌弘) 4:29
  歌 ERiCO  Program 菅谷昌弘

1998年、「東方異聞」結成以前に同じコンセプトで日本的ポップスをつくりました。歌以外すべてコンピューターの打ち込みですが、マニュピレーターの菅谷昌弘のサウンドメイクで実にアナログな音ができ上がりました。

桜の舞い散る様を思い描いて聞いてください。

 さくら さく さく さくら ちる さくら さくら ちる

 うすくれないの雨のごとく香しきにほい 舞うひとひらり

 その哀れその切なさや 人の世を映すよう

 うたかたの夢われを誘う遙かいにしえと 大和を染めて

 その姿その誘いや 惑わされとめどなく

   はらはら はらはら ... 

     ほろほろ ほろほろ ... ひらひら ひらひら ...

5 夢幻狂詩曲 (曲 堀越 彰) 7:35
  Dr/Per 堀越 彰 薩摩琵琶 首藤久美子 能管/声 竹井 誠
  
尺八 小濱明人 Bass 吉野弘志

「東方異聞」結成時につくった曲。

能楽に強く惹かれていた当時、ただ能楽曲の中でドラムを叩きたいという強い欲求がありました。もちろん能楽師が自分の舞台にドラマーを呼ぶことなどあるわけがなく、やりたければ「自分でつくりなさい」という天の声。「東方異聞」結成を決意した瞬間でした。
2001年に能楽舞いとの共演を実現させました。



6 月の沙漠 (曲 佐々木すぐる 編曲 堀越 彰) 5:17
  Dr/Per 堀越 彰 薩摩琵琶 首藤久美子 笛/能管 竹井 誠 尺八 小濱明人
  Bass 吉野弘志 Key 深町 純

皆様ご存知の「月の沙漠」、土着的なアレンジをしました。

7 晩秋神楽 (曲 堀越 彰 短歌 大江千里 古今集より) 6:30
  Dr/Per 堀越 彰 薩摩琵琶/歌語り 首藤久美子
  笛 竹井 誠 Bass 吉野弘志 Key 深町 純

「夢・うつつ・幻」改め「晩秋神楽」。祭り囃子をモチーフにした曲です。

遥か彼方から聞こえる祭りの笛の音。
それは秋の終わりを意味する。


つきみれば ちぢにものこそ かなしけれ
      わがみひとつの あきにはあらねど

8 鶴翼の陣 (曲 堀越 彰) 4:19
  Dr/Per 堀越 彰

「鶴翼の陣」とは、鶴が左右の翼を広げたように敵兵を中に取り込めようとする陣形で、武田信玄が川中島で使ったと言われる陣形の名前。それをイメージして即興で叩いたドラムソロに〆太鼓などを加えていきました。

9 送魂歌 requiem (曲 堀越 彰 詞 ERiCO 編曲 菅谷昌弘) 5:46
  歌 ERiCO  Program 菅谷昌弘

やはり1998年の作品で、身内の死に際しERiCO氏が書き綴った詩に曲をつけました。いつか僕も「歌ってみたい」、そう思っています。

  今 御魂 天に昇り行く 恐れや迷い煩悩

  すべての苦しみから解き放たれ 生まれ変わる

  今 御魂 天に昇り行く その諸行やたたえあらん

  ゆかしき先人との空白を埋めんと 愛しさ優しさふりかえる

  黄泉の国にて子々孫々 みまもるために

  未来永劫 絶えることなく やすらかに・・・


10 落城 (曲 堀越 彰) 6:17
  Dr/Per 堀越 彰 薩摩琵琶 首藤久美子 尺八 竹井 誠
  尺八 小濱明人 Bass 吉野弘志 Key 深町 純

メラメラと燃え落ちる城、そこには決して屈しない城主の覚悟を感じます。城と運命をともにし、死してなお魂を生かすというような壮絶な、しかしどこか清々しい男の最期を表現します。



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