9月19日
  松木氏とのリハーサル3日目


1234(当日・公演前)5(公演)




数年前、自分の可能性に疑問を感じたことがあった。
「堀越 彰というドラマーは一体どんな特徴を持って、何処に向かって行くのだろう・・・」自分の音楽、自分のステージとは何か、自分が一番生かされる場所は何処か・・・、ドラマーとして生きているのなら、ドラムを使って思う存分に自分の好きな世界を奏でたい。そんな思いが「SOLO-ist」の始まりでした。

その時、湧き出るようにほぼ同時に頭に浮かんだものが、「SOLO-ist」という名前と田中真聡のオブジェでした。過去にたった1度、共演をした田中さんのオブジェはこのパフォーマンスには不可欠なものでした。

今回、田中さんの新作オブジェは凄いです。あの自由に空間を漂うオブジェが「声」を持ちました。「メロディ」を奏でます。そして哀しみの波紋で、全てを包みます。五感で体験してください。


さて、今回のパフォーマンスの内容に触れてみたいと思っています。この原稿を書いている時点では、リハーサルの全てが終わったわけではないのですが、長年やりたいと思っていたストリングス・カルテットとの共演が実現します。そのうちの1曲は、バルトークの弦楽四重奏という難曲です。ストリングス・カルテットで再現することすら難しいとされているバルトークの弦楽四重奏曲第4番 第5楽章に加わります。

今回のように、優れたストリングス・カルテットとピアニストがいれば、やりたいことはすべてできるということがわかりました。それにピアニストが深町純さん、バイオリンが渡辺剛君ですからね、ロックもできます。今、僕にとっては最強です。

深町さんには、オブジェとのセッションをしてもらいます。今回、田中さんの作品の中に、ガムランのベルを叩く羽根のオブジェがあります。そのオブジェが奏でるメロディーをモチーフに即興演奏をしてもらいます。前例のない画期的なコラボレーションです。

そして松木さんの剣舞とのバトル。能楽に倣って「序」「破」「急」という3つの楽章で構成しました。フラメンコのリズムを使った「破」や倒れるまでやろうと言っている「急」など、何十時間にもわたって話し合い、動きあってつくってきたこの共演をどうぞお楽しみください。


僕は自分のドラムに「原始的な響きと空間を包むスケール感」を求めている。そのためには速く叩けなければならない。いかにして少ない動きで多くの音を叩き、波が押し寄せるようにクレッシェンドし、鳥が舞い降りるようにデクレッシェンドするかがポイント。肘をたたみ、胴体を捻り、腕の関節を機能させ、タッチを感じる。そして最も重要なことはリラックスすること。リラックスが次の動きを自由にし、感性を束縛から解き放つ・・・。

「Memory of・・・」という曲がある。基本的には4小節の繰り返しの曲なので、決してドラマチックとは言えない。でもそこに僕が「原始的な響きと空間を包むスケール感」で、彩り、思い、風景を描けたら、ドラマが生まれ聴く人の「記憶」に触れられるかもしれない、そんな思いで叩きます。

  では、シアタートラムでお待ちしています。 堀越 彰


「ゆるやかな坂の途中で」

堀越さんと初めて会ったとき、ステージや音楽のシーンに今ほど関わりを持つなんて考えていなかった。 ただ今にしてみると自分の中にいつの間にか大きな脈となって流れているライブ表現への好奇心はずっと小さな頃からの自分の体験してきたことの同一線上を過去へ、その延長線上を未来へたどろうとするラインから少しもはみ出さずにその上に在ったのだと思える。 さらに幸運にも普段はお互いに違うジャンルで活動しながらも空間と時間の感覚において、様々な共鳴点を見つけ続けられていることに一番の特筆事項がある。実験的ではありながら、どこかで確信犯としてお互いの手の内や逆に普段は得ることが難しいリクエストをさらし合っていくことに意義を感じている。 本音で自由に遊べているとはまだ言いがたいが、少しずつゆくりでいい、この坂道をしばらくのぼっていたい。のぼるほどに景色は良くなっていくはずだ。

「ゆるやかな坂の途中で」これはマカオの劇場の館長にプレゼントした小作品に付けた題名だがこのプロジェクトにかかる気持ちとも重なるところがあるので引用してみた。(だだし現在は公演を目前にして当面はいささか急な坂を急いでのぼらねばならないが、その先にはきっと・・・?)

「風」という言葉をタイトルによく使う。少し意識的に違う言い回しを探してもみるのだがなかなかしっくりこない。ボキャブラリーの無さもあるがそれだけ「風」という現象や言葉の持つイメージの範囲が広く深く、飽きが来ない。風そのものは見えないが風に吹かれているモノは連なって風景をつくる。季節の変わり目を体感しやすいこの頃に今公演が行えることは幸運だ。窓やモニター越しではないリアルなライブ空間に自分たちなりの風景を作ってみる、劇場に脚を運んで色々な風を感じてもらえればと思う。 田中真聡




 ■プログラム
Openning Vocalise (Rachmaninoff)         <弦楽四重奏>
  CONSEPT
人は「記憶」と共に生きている。心の中に膨大な「記憶」という資料を眠らせている。

窓から差し込む眩しい陽射し、真夏の夜の月と影、野原を駆け回る子供の声。
草の匂い、出会いや別れの思い出、誰もが持っている記憶。
たとえ経験がなかったとしても、まるで自分がしてきたかのように思い描ける風景や感情。
例えば、1人の侍が 自らの運命を覚悟し 敵に向かう時の思い。
もちろんこれは想像の世界だ。しかし、その思いをリアルに自分のものとして想像できたとき、
それは記憶かもしれないと 僕は思う。

Scene 1 「Pride 誇り」
チベット仏教の荘厳な響きが生を語り、激しく打ち鳴らされる鐘の乱打音が死を予感させる。テーマは「PRIDE」。それはASIANとしての誇り。
  1 Sand Mandara (Philip Glass)
2 Premonition -予感- (Akira Horikoshi)       <大太鼓>
3 バルトーク弦楽四重奏曲 第4番 第5楽章 (Bartok) <弦楽四重奏 & Dr>
  The Sword Dance    作品37 -無伴奏合唱によるミサ- (Rachmaninoff)
刀は何も迷わず、ただ斬ることのみに存在する。しかし、それを扱う人間は死を恐れ、決断に迷い、運命を嘆き、自らを疑う。剣術はそれらを振り払い、刀と一体になるための儀式のようなもの。揺れ動く人の心と迷わず輝く真剣の対比を表現する。
Scene2 「The Previous Night of The War 闘い前夜」
  1 Prerucucion Interna  (Akira Horikoshi)  <el Vil Key & Dr>
2 Sing Sing Sing (Louis Prima)           <el Vil Key & Dr>
3 WAR CRY -鬨の声- (Akira Horikoshi) <el Vil Key & Dr>
  The Objects playing with a pianist (Jun Fukamachi / Bell) <エスニック・ベル & Pf>
安らぎ、開放、静寂、一瞬の不安、野に咲く花のように、水たまりに集う小鳥のように戦場とは縁のないものに焦点を当てる。やがてそれは蹴散らされてしまうことも知らずに・・・。
Scene3 「Perish in Battle 戦場に散る」
   1 A Will -遺言-  (Akira Horikoshi)

 花、桜の花の美しさは 日本人の美学と共通する。

 たたずまいは派手さを誇らず、風雅と知性に満ちあふれ、
 風に吹かれるまま 散り行く覚悟がある。

 その散り際の 艶やかで、何と美しいことか。
 儚く、何と潔いことか。

 志しは 大地に深く根を張り、揺るぐことはない。

 これこそ、日本人の心である。

 2 Instinct -本能- 儚くも散らす命の花びら (Akira Horikoshi / Fumio Matuki) <Dance & Drums>

 その時がやって来る。二人は向き合い、愛しあうかのように見つめ合う。二人は美しくも悲しい闘いを始める。それぞれの思いを舞い、歌う。これ以上ない速さで、触れあい、また離れてゆく。決して追い掛けず、ただひたすら自らの極限と闘う。予定調和を遥かに超えた本能的な決断の中でのみあり得る共存。考える間もなく感じあう。二人は本当に愛しあったのかも知れない。肉体は儚くも崩れ、
微かな吐息だけが響く。そこには勝者はなく、敗者の美学だけが浮き彫りになる。
 朽ち果ててゆくものの美しさ。やがて確実に消えてゆく命の儚さ。抜け殻となったその肉体は、優しく抱かれ永久へ導かれて行く。

 3 Tears of Mother - Vocalise (Rachmaninoff)      <Voice Vil & Key>

 遥か遠くから聴こえる女の声。闘いに興じる男達に哀しむ母の歌声か・・・。
 天上から落ちる水は哀しみの涙。それは波紋を写し出し男達を包む。

 4 Memory of・・・(Akira Horikoshi / Arr Masahiro Sugaya) <弦楽四重奏 Pf & Dr>

 誰もが持っている記憶の断片。




■オブジェ名・コンセプト紹介
  ・風を数えて歩く 1996 (ランダムなメトロノーム)
 --- この風の端は昨日と明日のどちらにつながっているのか。
  ・星のまたたく音をつなぎ合わせて  1991  (蓮の花)
 --- 何かを見つめるように耳を澄ましてみた。瞬きの音の合間に何か聴こえた。
  ・WIND DRINKER  2001 (白い2枚羽根)
 --- 少しずつ思い出しながら昨日の話の続きをしませんか?
  ・風の栞   1999  (背の高い緑色の二等辺三角形)
 --- いつかまた戻ってきた時のために残しておく幾つかのこと。
  ・風影  1993 *ロビー展示 (黒い1枚羽根)
 --- 追いかけることよりもむしろ待つことについて・・・
  ・風をまるめて 2004 (エスニックベル演奏装置)
 --- ポケットの中が少しふくらんできた。手に執るとすぐにこぼれてしまった。
  ・風の尾 2004 (色違いの3枚羽根)
 --- 無くさないようにと引き出しに入れたまま忘れていた・・・
  ・"Surfaces"  2004  (水の装置)
 --- 幾重もの時間の層の底から染みだして、そして溶け合っていく・・・
  ・"attractive calls" 2004 (サウンドホース)
 --- 立ち止まるといつもどこかで呼ぶ声がする。
  ・"Air sword" 2004 (大きな二枚刃)
 --- 時も風も同じ様に流れていく。少しだけでも切り取ることは出来ないだろうか。



■コメント

*「今日も後ろに堀越彰がいる」僕の民謡が変化するたびに、堀越君が前後左右にリズムが動く。多喜雄に歌を唄わす堀越君が、いよいよ動きだした。本物はいいもんだと、つくづく思う。 _伊藤多喜雄(民謡歌手)

*堀越さんとは一度ステージでご一緒させて頂いたことがある。その時、僕はとんでもない間違いをしでかしたのだが、堀越さんはそれを何故かいたく喜んでくれた。それ以来僕は離れていても堀越さんへのシンパシーをいつも感じている。彼は完璧な演奏のできる優しい詩人なのだ。 _ゴンザレス三上(ギタリスト/GONTITI)

*堀越さんも田中さんも、とてもよく知っている仲ではあるが、ふたり一緒の活動を一度も見ていない。ドラムのソロとキネティック田中オブジェが一体どういう絡み方をするだろう、何でこの二人が一緒にやっているのだろう、と不思議に思ってきた。今回は、その種明かしを見てやろうと思っている。憎い絡み、あるいは機械と人とのリズムの絶妙さ、そしてボコリと外し、などなど、できていたなら喝采である。 _小池博史(演出家/パパ・タラフマラ)

*原始的にうごめくミトコンドリアの中から突然しなやかな豹が走り出る! その自在に変容するドラミングに興奮し、クリエイティブな姿勢を見ては自分をふりかえる。とにかく刺激的な存在なのです。 _金子飛鳥(バイオリニスト)

*堀越さんとは、僕が「ニ短調―白鳥の歌」というソロの舞台をやったときに、初めて出会いました。一見とてもクールな二枚目といった印象が強かったのですが、中に秘めている熱さとひたむきさ、そして謙虚さが、とてもいいバランスで同居しているのを知って、彼のドラム同様、人としてもとても好きな存在となりました。その時は、どんな時間でもすきあらば、僕の踊りを真剣なまなざしで見つめつづけていてくれた、堀越さんの「こころ」にとてもうれしさを感じていた僕でした。今回のリサイタル、会場には行けませんが、大成功を心から祈っています。では! _舘形比呂一(ダンサー/THE CONVOY)




■GUEST

深町 純    Jun Fukamachi (Piano / Keyboard)
東京原宿生まれ。東京芸術大学音楽学部作曲科に入学、卒業10日前に退学。日本では数少ない独自の音楽観をもつミュージシャンとしてその活動ぶりは常に注目を集めてきた。71年、ポリドールレコードよりファーストアルバム「ある若者の肖像」をリリースし、ポップスの世界にデビュー。ロックキーボードプレイヤーとしての活動、フュージョンと呼ばれるジャンルのアルバム活動を始め、ニューヨークのスタジオミュージシャン達との交流を深め日本へ招聘してライブ公演を開催するなど、我が国におけるその種の音楽の普及に寄与した。89年4月、洗足学園大学音楽学部教授に就任し、シンセサイザー専攻科を設立。また同大学音楽工学研究所長を兼任し、これまで未開発の分野であった、音楽と科学との文化的融合を目指す研究機関を発足させた。

渡辺 剛  Tuyoshi Watanabe (Violin)
大阪出身。3歳の頃よりヴァイオリンをはじめ、ピアノ、オーケストラ、ソルフェージュなどの音楽教育を受ける。相愛学園子供のための音楽教室、京都市立堀川高校音楽科、東京芸術大学音楽学部器楽科を卒業。大学在学中より芸大生を中心に結成された「Gクレフ」のメンバーとして8枚のアルバムをリリース、全国ツアー、テレビレギュラー出演、ラジオのDJ、等の活動を行い1991年にはNHK紅白歌合戦にも白組として出場。バンド解散後、ソニーミュージックエンタテインメントよりアルバム「GET」でソロデビュー。その後、セッション、プロデュース、レコーディング、芝居、ダンサーとの共演、ヴァイオリン指導、校歌の作曲、エッセイを連載するなど多方面で活動中。2001年12月、演出、構成、作曲を手がける“RED×RED SOUL COMPANY”始動。2002年からは「mind!」シリーズとして自身の演奏スタイルを追求するセッションを開始、独自の世界観を生み出している。

杉野 裕  Yu Sugino (Violin)
5歳よりヴァイオリンを始める。1981,84,87年、毎日学生音楽コンクール入賞。89年、アメリカ、ボストンのニューイングランド音楽院に奨学生として入学。在学中よりオーケストラや室内楽の演奏活動を展開する。99年帰国。現在、クラッシックの他、ミュージカルやポップス等、幅広いジャンルの演奏活動を展開している。

渡辺一雄  Kazuo Watanabe  (Viola)
1988年桐朋学園女子高校音楽科を卒業後、89年アメリカ、ボストンのニューイングランドコンセルバトリー・ディプロマコース入学。92年、同楽団のソリストとして共演。ヴァイオリンを徳永二男、ドロシー・ディレイ、エリック・ローゼンブリスの各氏に師事。94年、95年にロンジー音楽院より、二度にわたり最優秀演奏者賞を受賞。コンサートヴァイオリニスト・ヴィオリストとしてボストンで活躍。99年帰国。現在、ソロ、室内楽、レコーディングなど多方面、各ジャンルにて活躍中。

大沢真人  Makoto Osawa   (Cello)
1962年山形生まれ。10才よりチェロを始める。86年東京音楽大学卒業。チェロを苅田雅治、室内楽を徳永兼一郎、堀了介各氏に師事。最近の活動としては室内楽、TV・CD等のスタジオ録音、ポピュラーミュージシャンのコンサートサポート、97年には作・編曲家服部克久氏率いる東京ポップスオーケストラのメンバーとして渡米し国連本部総会議場での公演やカーネギーホールでNYポップスオーケストラとのジョイントコンサートに出演するなど、マルチプレイヤーとして様々なジャンルの音楽に積極的に取り組んでいる。RMAJ( Recording Association of Japan )理事。また90年より東京音楽大学の付属高校、付属音楽教室にて非常勤講師を務めるなど指導者としての顔も持つ。

松木史雄    Fumio Matuki (剣舞)
山口県出身。日本大学芸術学部演劇学科演出専攻。演出家・末木利文氏に師事し舞台演出・演技を学ぶ。人間国宝・中村雀右衛門氏、大谷友右衛門氏に師事し歌舞伎の手法を学ぶ。1995年より桜月流美剱道創流メンバーとして第一師範となる。継承と同時に、舞台活動を開始。「O-Getsu-Ryu/桜月流」として、神谷美保子、石綱寛、神谷昌志等と共に数多くの作品を発表。和(日本・ヤマト)・モダン・スピード・芸術性を伴った「美剱」という新しいジャンルを確立する。パフォーマー、剱コレオグラファーとして、剱構成(振付)・演出・指導・パフォーマンスを行う。2004年3月、アメリカMLB(ニューヨークヤンキースVSデビルレイズ)開幕戦オープニングセレモニーに出演(吉田兄弟、J・DNAと共演)。外部作品にも、剱舞構成・振付(演出)を指導。日本的でありながらもスピード感のあるドラマティックなミザンス構成には定評がある。また、活躍中の俳優たちのための特別クラスはじめ、教授の場も広く展開している。




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